個人事業主の確定申告において、経費を適切に管理することは大変重要です。納税額を軽減できることに加え、不正計上によるペナルティを避けることにもつながります。
本記事では「なにを経費計上できるのか知りたい」「なるべく税負担を抑えたい」とお悩みの方に向けて、個人事業主の経費にまつわる知識を解説しています。
税務署の指摘を受けない節税知識を身に付けたい方は、ぜひ参考にしてください。
個人事業主が経費にできる支出は?
経費とは、事業を行ううえで発生した「業務との関連を明確に説明できる費用」のことです。個人事業主が経費にできる出費の具体例は以下のようなものが挙げられます。
- 事業所の家賃
- 仕事で使用するパソコンやタブレットの購入費用
- 取引先への交通費
- 事業で使用するインターネット利用料
経費はその年の売上から差し引くことができるため、経費が多いほど課税される所得が低くなり、納める税額も少なくなります。個人事業主が税負担を抑えるためには「経費として計上できる出費はなにか」を正しく把握しておくことが重要です。
経費として認められるために必要なポイント
計上できる経費に上限はありませんが、経費と認められるためには以下の条件を満たす必要があります。
- 経費の支出に合理性があること
- 売上と経費のバランスが常識の範囲内であること
- 個人事業主本人の支出と明確に区別されていること
経費にすべきか迷う出費は、これらの基準に則って判断しましょう。
|経費の支出に合理性があること
次の項目に合理性があることが、経費として認められる条件のひとつです。
- 支出の相手先
- 支出の金額
- 支出した時期・タイミング
たとえば通常の取引先でない相手へ多額の支払いがあったり、年末に出費が集中していたりする場合は、その必要性を証明する必要があります。前年以前と比較して極端に支出が増減している場合も要注意です。
できる限り、証拠となる資料の入手し保存することを心がけましょう。
|売上と経費のバランスが常識の範囲内であること
売上と出費のバランスが不自然な場合は、税務署から指摘を受ける可能性があります。売上金額と経費の割合に明確な基準はないものの、業種によって妥当とされる経費率には大きな違いがあるため「〇%なら安心」とは一概に言えません。
たとえば月の売上平均が30万円の事業主が、毎月のように10万円以上の接待交通費を支払っている場合は、常識的な経費の範囲を超えていると判断されるでしょう。
接待交通費は公私混同しやすい出費であるため、特に税務署のチェックが入りやすいポイントです。合理的な説明ができるかどうかを確認のうえ、経費計上しましょう。
|個人事業主本人の支出と明確に区別されていること
個人事業主は、事業上の支出とプライベート上の支出が曖昧になりがちです。事業で必要な費用は、個人的な出費と明確に区別しましょう。
たとえば仕事でカフェを利用した場合、コーヒー代は経費計上できますが、どのような理由で必要だったのかを明確に説明する必要があります。領収書やレシートに「会議」「営業」などと記して取りまとめておくと良いでしょう。
クレジットカードや銀行口座は、事業用とプライベート用を区別すると、より経費として認められやすくなります。
経費計上に必要な証拠書類
支出した費用を経費として計上するためには、支払いをした「相手先・内容・金額・日付」を証明できる書類が必要です。領収書はもちろん、レシートも証拠書類として利用可能です。
もし領収書やレシートがない場合は、次の書類で代替できます。
- 請求書
- 納品書
- 出金伝票
- クレジットカードの利用明細書
- ATMの振込明細書や通帳のコピー
- 購入確認メールのコピー
クレジットカードの明細書やICカードの利用履歴は、該当する支出にマーカーをしてわかりやすく管理することがポイントです。クレジットカードと同様に、ICカードも事業用とプライベート用を分けておくと、より経費として認められやすくなります。
個人事業主が経費にできる費用の一覧
ここでは、個人事業主が経費計上時によく使用する費用と勘定科目を18種類抜粋してご紹介します。
勘定科目 | 概要 | 具体例 |
租税公課 | 税金や公共機関への負担金 | 個人事業税、固定資産税、消費税、自動車税、住民票の発行手数料 |
地代家賃 | オフィスや駐車場の使用料 | 店舗や倉庫の家賃、20万円未満の礼金・仲介手数料 |
水道光熱費 | ライフラインの使用料 | 電気代、ガス代、水道代、灯油代 |
通信費 | 電話、郵便、インターネット代 | 切手やハガキ、事業で使用する携帯電話代やインターネット料金 |
荷造運賃 | 荷物の運賃や梱包費 | 宅配便の配送料、梱包に必要な段ボール代 |
旅費交通費 | 交通費、宿泊代 | 出張時の新幹線代、ホテル代 |
保険料 | 損害保険料、自動車保険料 | オフィスの地震保険料、事業者の自動車保険料 |
消耗品費 | 取得価格10万円未満か、耐用年数1年未満の物品 | 文房具、棚や机、10万円未満のタブレット |
減価償却費 | 取得価格10万円以上かつ耐用年数1年以上の資産を、耐用年数に応じて分割計上する費用 | 車、機材、複合機、パソコン |
修繕費 | 購入済み資産の修理代 | 店舗の修理代、機器のメンテナンス費用、賃貸物件の原状回復費用 |
給料賃金 | 従業員への報酬 | 従業員への給与、賞与 |
外注費 | 外部へ業務委託した費用 | 派遣会社へ支払う費用、Webサイト構築費、営業や事務処理の委託費 |
支払手数料 | 事業上発生する手数料 | 銀行の振込手数料、登録手数料 |
接待交通費 | 取引先へ支払う接待や贈答の費用 | 取引先との飲食代、お土産やお中元 |
福利厚生費 | 従業員の健康や福祉、生活向上を目的とした費用 | 社宅代、社員旅行代、新年会費用、資格取得費用 |
宣伝広告費 | 事業にまつわる広告や宣伝の費用 | 雑誌やWebなどのメディア掲載料、フライヤーやカタログの制作費 |
貸倒金 | 回収不能になった債権 | 回収不能となった売掛金、貸付金 |
雑費 | 他の科目に当てはまらない費用 | ごみ処理代、クリーニング代、引越し代 |
上の表に当てはまる支出は、基本的に経費計上可能です。
個人事業主が経費にできない費用の具体例
経費になるかどうかの判断がつきにくい出費はいくつかあります。ここでは代表的な、経費にできない費用の具体例をご紹介します。
|個人事業主本人が納める税金
事業主本人が納める所得税や住民税は、あくまで個人にかかる税金のため経費計上ができません。国や地方公共団体に支払う延滞金や交通反則金も、罰則の意味合いが薄れてしまうという理由から、必要経費として認められていません。
ただし、事業用として支払う個人事業税や固定資産税などは「租税公課」の勘定科目で計上ができます。
|個人事業主本人の買い物や飲食代
業務に関係がないと見なされる買い物や飲食代は経費計上できません。具体的には、以下のような出費を指します。
- 休憩中や業務終了後に利用したカフェ代
- メガネやスーツなどの被服費
業務上使用するものですが、プライベートで流用できるという観点からそのような判断がなされています。
|個人事業主本人の生活に関する出費
個人事業主本人の生活に関する出費とは、以下のようなものです。
- 個人事業主本人の給与
- 個人事業主本人の各種保険料
- 健康診断費用
- スポーツジムの会費
保険料は、経費ではなく所得控除として申告します。
また、個人事業主には福利厚生という概念がありません。従業員に対して支払う給与や健康診断費用のみ、経費計上が可能です。
|個人事業主の家族へ支払う報酬
生計を同一にする家族に対して支払う報酬を経費とする場合、開業手続きをして青色申告をする必要があります。家族を青色事業専従者として登録すると、専従者給与として経費計上できるようになります。
家族分の社会保険料を支払っている場合は、経費ではなく「社会保険料控除」として申告します。
個人事業主ができる節税裏ワザ4選
経費や控除をフル活用することで、所得税や住民税の負担を軽減できます。手元に残る資金を増やすために、個人事業主が知っておくべき節税方法をご紹介します。
|青色申告をする
確定申告は、青色申告と白色申告のいずれかの方法で行います。青色申告は、白色申告と比較して節税効果が高く、以下のようなメリットがあります。
- 専従者給与:生計を同一にする家族への給与を経費にできる
- 青色申告特別控除:最大65万円の所得控除を活用できる
- 赤字繰り越し:事業で出た赤字は3年にわたって繰り越し、黒字と相殺できる
- 固定資産一括計上:30万円未満の固定資産は一括で経費計上できる
青色申告をする場合は、「開業届」と「青色申告承認申請書」を納税地の税務署に提出する必要があります。
|家事按分を明確に計算する
家事按分とは、事業とプライベートそれぞれに関わる費用を事業で使用している割合の分だけ経費計上することです。家事按分できる代表的な費用は以下のとおりです。
- 家賃
- 通信費
- 修理費
- 自動車関連費用
- パソコンやタブレットなどの固定資産
自宅を仕事場にしている場合は、家賃や光熱費の一部を一定の割合で経費計上できます。家事按分にルールはないものの「住宅の一部を事業の専用スペースとしている」「自宅で過ごす時間のうち8時間は業務に充てている」などの明確な説明が必要です。
白色申告でも家事按分を利用できますが、認められる条件はやや厳しくなります。青色申告をすることで、よりスムーズに家事按分が認められます。
|所得控除をもれなく申告する
所得控除額が大きいほど課税所得は減少するため、節税効果は大きくなります。個人事業主が申告できる控除の代表例は以下のとおりです。
- 生命保険料控除
- 社会保険料控除
- 医療費控除
- 寄付金控除
他にもさまざまな控除があります。該当するものがあるか確認しておきましょう。
|小規模企業共済やiDeCo(確定拠出年金)を利用する
個人事業主が退職後や老後の資金として積み立てる小規模企業共済やiDeCo(確定拠出年金)。掛け金の全額が所得控除になるため、節税効果は抜群です。
掛金(月額) | 注意点 | |
小規模企業共済 | 1,000円~7万円 | 解約理由・時期によっては元本割れする |
iDeCo(確定拠出年金) | 5,000円~6万8,000円 | 原則60歳まで引き出せない |
それぞれの制度にメリット・デメリットがあります。よく検討したうえで、プラス面が大きい場合は積極的に活用しましょう。
まとめ
本記事では、個人事業主が経費にできる費用や節税ポイントを紹介しました。経費や控除を適切に計上することで、節税メリットを最大限享受することができます。
青色申告は、白色申告と比較してハードルが高いと感じる方も多いかもしれませんが、それ以上にメリットが大きい申告方法でもあります。専門家の手を借りることや、確定申告ソフトを活用することもひとつの手。無理のない範囲で確定申告の準備を整えていきましょう。